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ヴィパッサナー瞑想と内省型リーダーシップ

この夏,ヴィパッサナー瞑想を学びに京都で10日間のコースを受けてきました.このコースは,S・N・ゴエンカ氏による指導を忠実に再現するもので,日本ヴィパッサナー協会によって開講されています.ヴィパッサナー瞑想は決して宗教ではなく,S・N・ゴエンカ氏も宗教家ではなく,このコースは純粋に瞑想法を指導するものです.ゴエンカ氏の指導によって世界中で開催されているヴィパッサナー瞑想のコースは全て無償で提供されており,ゴエンカ氏をはじめ全てのスタッフがその運営に無報酬で関わり,運営に必要な資金は全て受講生からの寄付によって賄われているそうです.


瞑想には多くの方法論がありますが,ヴィパッサナー瞑想はインドに古くから伝わる瞑想法の1つで,その伝統はお釈迦様にまで遡るものとして知られています.このヴィパッサナー瞑想で特に強調される点は,今起きていることを平静な心で観察し続けるというものです.そのため,呼吸や身体の感覚に意識を向け続けます.他には何もありません.何かを唱えたり,拝んだり,イメージしたりといったことは一切ありません.自然に起きることをひたすら観察する.ただそれだけです.ただ起きることを観察すると,自分自身の息づかいや皮膚の感覚や体の重みやいろいろな感覚が知覚されます.

 

そして,その感覚は時間とともに変化していくことを理解しはじめます.当たり前のことかもしれませんが,私自身,この事実を体験し,とても驚かされました.例えば,足が痺れて痛む,その感覚を観察し続けていると,やがて痛みという感覚も変化していきます.全ては変化しているという事実を,自らの身体を観察し続けることを通じて学ぶのです.この観察を通じての学びは,決して単に知識を増やすということではありません.自分自身の身体の枠組みを使い,智慧として深める学びです.

 

現在,私自身は,このヴィパッサナー瞑想の,そしてこの学びの全くの初学者です.初学者ではりますが,その素晴らしさは強く感じました.S・N・ゴエンカ氏は,講話の中で,心の平静さの基盤は,全ては変化しているという理解にあると言われていました.本質的に変化するものであるからこそ,その理解を通じて心のとらわれや執着もなくなるのだと.私自身はもちろん日常生活の中でとらわれだらけなわけですが,この学びはとても参考になっており,気持ちを立て直して落ち着きを取り戻す上で大変役に立っています.

 

現在,ビジネス専門誌の『人材教育』にて内省型リーダーシップを野村総研の永井恒男氏と一緒に連載しています.その中で私は,リーダーの2つのタイプを示しました.1つは内省型で,もう1つは反応型です.反応型は目の前で起きることにとらわれ,すぐに過去からの行動パターンを繰り返してしまいます.内省型は,目の前で起きていることに対してパターン化された反応をするのではなく,受け止め,判断を保留し,事態の背景を掘り下げ,自分のあり方をみつめ直して,新たな対話を生み出していきます.

 

私は今回のヴィパッサナー瞑想を通じて,内省型リーダーシップを実践する上で重要なポイントは,目の前の事態にとらわれを持たないということだと理解しました.どのような事態に対してもとらわれを持たず,平静でいることが極めて大切なのです.難しいことですが,ヴィパッサナ—瞑想を通じて,心の平静さを学び,訓練することは可能だということがわかりました.とらわれを持たずに,平静でいるからこそ,反応的な行動ではなく,常に変化し続けるという事態の本質を見つめ,本当に深く自分が望んでいる方向に対してぶれずに前進することが出来るのです.


改めて内省は本当に深いものであることを学ばせて頂いた暑い暑い夏の京都での10日間でした.このヴィパッサナー瞑想について教えて下さった友人に心から感謝し,コースを用意してくださった日本ヴィパッサナー協会の皆様,そしてS・N・ゴエンカ氏に心から感謝したいと思います.ありがとうございました.