ドラムサークルとAI
2009.08.12
昨年度に開講した実践型社会起業家論ですが,その時の学び,特にSVP東京に関する伊藤健さんの講演を一つの起点として,今,四国に社会起業家支援のための新しい仕組み作りをはじめています.今日はその仕組みづくりの途中の様子を少し紹介したいと思います.
8月8日(土)朝9時,香川大学の体育館にいくつものドラムの音が鳴り響きました.ドラムを打ち鳴らしているのは,経営者や行政マン,NPO理事,MBA学生,大学教員といった多彩な顔ぶれで共に四国に社会起業家支援のための新しい仕組みと組織作りを模索する仲間達です.
輪になってドラムやベルなどを打ち鳴らすドラムサークルを通じて,一人ひとりが自律的に情報を受発信しながら,同時に全体としても1つとなって美しいアンサンブルを創造する事を学びます.持続的に社会貢献とビジネスを両立させていこうとする社会起業家の方々の多くは,単に上意下達によって動く組織ではなく,個人の自律と全体の協調のバランスがとれた志やヴィジョンによって駆動する組織づくりを目指しています.もちろん我々自身もそのような組織づくりを目指しています.また,我々の社会起業家支援の一環として,将来そのような組織づくりに関するノウハウも提供したいと考え,自分達の活動にドラムサークルを取り入れています.
ドラムサークルが美しいアンサンブルを生み出すためには,一人ひとりが全体の音色をよく聴き,その上で自らを表現していく必要があります.このようにドラムサークルでは個と全体の協働が重要な要因となるため,美しい響きを追求する過程の中で体験的に自律と協調のバランスを学ぶことが出来るのです.
同日の午後からは大学内の教室に場所を変えてさらに学びと分かち合いの時間を持ちました.ここではAI(アプリシエイティブ・インクワイアリ:肯定的探求)という組織開発の手法を用いて場を進行しました.アプリシエイティブ・インクワイアリとは,個人の持つポジティブなストーリー(人生や仕事の経験)に焦点をあて,個人の強みから創造的な未来を描き,それをベースに組織全体の共通の夢を描いていく新しい組織開発のアプローチです.参加者は2人1組となって,お互いの仕事経験や未来に実現したい夢についてのインタビューを行い,その内容をメンバー全員にシェアします.参加者からは次々と熱い想いが語られ,黒板がびっしりと埋め尽くされました.
「現場で大変な思いをしている社会起業家の方々を元気にする栄養ドリンクになりたい」,「産官学のネットワークを活かして地域活性化の新しい流れを創造しよう」,「四国に社会起業家に心から称賛を送れるような場や文化を作りたい」.こうした想いの一つひとつがやがて共通のヴィジョン,共通の夢としてまとめあげられた頃,すでに時刻は夜の11時近くになっていました.
自律と協調のバランス,個人の夢と全体のヴィジョンの共振,こうしたことはなかなか机上では学ぶ事が難しいものです.しかし,肯定的な内省と対話,時にはドラムサークルやAIなどを用いたアプローチを通じて,私たちは体験的に学びを深めながら,個人としても全体としても成長する事が出来るのだと感じています.私たちの社会起業家支援のための新しい仕組み作りはまだはじまったばかりですが,こうした学びと成長と共に,着実に前進を続けていきたいと思います.