お問い合わせ

blog

生と死、獲得と喪失

今年の4月から週1回、関西学院大学社会学部の聴講生をしています。聴講している科目は藤井美和先生の死生学です。

死生学藤井先生との出会いについては以前ブログでも書かせて頂いたのですが、私自身が死生学に強い関心を持っている理由の一つは、現在のビジネススクールの教育科目には偏りがあると思ってきたからです。

ビジネススクールでは、競争戦略論をはじめ、「戦い」をイメージさせる科目が数多くあります。ビジネスにおける戦いの目的は、投資に対する経済的な利潤を最大化して獲得することであり、戦いを教えるということの中身は「獲得」のノウハウを教えるということです。つまり獲得ノウハウの教育の場がビジネススクールであるとも言えます。

しかし、人間を個人のレベルで見ると獲得というコンセプトがカバーできる範囲には限界があります。それは誰しもいつ死ぬかわからないからです。誰もが死に向かって生きており、我々は皆死にゆく人だと言うことが出来ます。そして、死にゆく過程とは獲得だけではなく、多くのことを喪失してゆく過程であると言えます。実際に身体的な制約から出来なくなることが沢山でてきます。人と会うことや趣味であっても断念せざるをえなくなっていきます。

ビジネススクールは別に人生を教える学校ではないのだから獲得だけを教えても問題ないという考えもあるかもしれませんが、やはり獲得だけを教えることには偏りがあるのは事実です。獲得だけを目的として飽くなき競争をすることが今日の世界的な景気後退を生み出してきた一因であることや、ワークライフバランスの問題を生み出してきた一因であることは否定することが出来ません。

経済的な目的とそれ以外の目的は関連しあっており、時に金銭は他のより重要な目的を達成するための不可欠な手段になるなのだから、まずはお金がないとはじまらないだろうという指摘も当然ありますが、経済的な利得を獲得するために働きすぎてストレスで病気になったり、家族の関係が悪化したり、生き甲斐を喪失してしまったりといった問題が後を絶たない現実に対して答えにはなっていません。

藤井先生は死も含めて生を考えることの大切さを授業の中で何度もおっしゃっていました。そしてそれは喪失も含めて獲得を考えるということの大切さでもあると思います。私たちの様々な目的にはそれぞれ異なる重みがありますが、私たちはその重みの相対性について無自覚であることが多いように思います。そしてその原因は、死や喪失について考えることをタブーとし、考慮の対象外としている社会的な風潮とも関係があるのではないかと思います。戦略論では、限られた資源を有効に使う為に目的にも優先順位をつけるようにと教えますが、死や喪失も含めて目的の再検討をすることが重要ではないかと思います。

「人間として死や喪失の過程を学ぶこと」、「獲得と喪失を一体のものとして捉えながら仕事の目的を考察すること」これらのことを教育の中に組み込んでいくことがこれからのビジネススクールにとって大きな課題であると思います。

鶴岡出張

先週,東北公益文科大学大学院の石田英夫先生のお招きで山形県鶴岡市に出張してきました.

今回の出張目的は2つの会社を取材させて頂くことでした.

1社目は伊藤鉄工株式会社様,2社目は湯の浜温泉の亀や様です.

1社目の伊藤鉄工さんは,なんと創業800年を超える企業です.ある調査によれば日本で4番目に古い営利組織ということになります.

それほどの長い期間,ファミリーを中心として経営を続けることが出来た理由は一体何だったのか,家族や親族の方々との関係性,技術や経営,地域や顧客との関係性,環境変化への対応など,色々とお聞きしました.

itoutekko2
文治5年(1189年)創業

itoutekko1
経営者の伊藤さん親子,石田先生と一緒に記念撮影.



2社目の亀やさんもファミリーを中心に経営を続けられてきた100年以上の歴史を持つ企業であり,名門旅館です.

kameya1
明治6年(1873年)創業 風格を感じさせる亀やさんの看板



大変興味深かった点は,社長の阿部さんが,先代経営者であるお父さんと一緒に経営者としてこれまで自分達が果たしてこられた経験と役割を振り返り,それまで当たり前であった業界の常識や経営者であるからこそ見えにくかったことを発見・反省し,その後の経営の基礎となるお考えなどをまとめられたことでした.

ファミリー企業の場合,ファミリー・メンバーの方々は一般の社員の方とは異なるキャリア・パスを歩むことが少なくありませんし,ファミリー企業の長い伝統や文化に幼少の頃から触れていることが少なくありません.もちろん,そのこと自体は決して良いとか悪いとかの問題ではありません.重要な点は,ファミリーにはファミリーという条件ゆえに見えていることや,時に見えにくくなっていることがあるということです(逆に一般の社員の方には見えにくいこともあります).阿部社長の場合,親子の対話を通じてそうした点に数多く気づかれていかれていったという点で私にとって大変興味深いケースでした.

kameya2
亀やさんの立派な庭園でも記念撮影.左から石田先生,阿部社長,八木.



なお,当日は足を伸ばせませんでしたが阿部社長が手掛けられた湯田川温泉 湯どの庵と東京・赤坂の阿部も大変好評だそうです.

取材にご協力いただいた伊藤様,そして阿部様,誠にありがとうございました!

大変勉強になりました.





さて,取材が終わって,湯野浜温泉の温泉街を石田先生とプラプラ歩いていると・・・

「八木君,おいしそうな匂いがするねぇ」

「あ,石田先生,あそこの魚屋さん魚焼いてます!」

sakanaya1


「食べてく?」(お店の方)

「も,もちろんです!ビールあります?」(石田先生+八木)



sakanaya2
そんなわけで最高の焼き鯖にもありつきました.

鶴岡最高!

日経トップリーダー6月号 修羅場の後継学

本日,日経トップリーダーの6月号が発売になりました.

ntl0906
今月号でもこれまで私が行ってきた調査の結果を基に「修羅場の後継学」という記事を提供しています.

内容は後継経営者の方々が経験する修羅場と呼ばれる困難な経験やその意味についてです.

記事では紙幅の関係上十分に述べていませんが,私の研究では,修羅場自体は必ずしも人を成長させるとは限らないけれども,そのような状況が自ら自身の内省を深めるまたとない機会となることが明らかになっています.大規模な調査を行った結果,内省によって自己理解と他者理解を深め,自己変革ができるならばリーダーとしての有効性も大きく向上することを明らかにすることが出来ました.

お読みになられた方,ご感想やご意見などお寄せ頂ければ幸いです.

メールはこちらのフォームからどうぞ.

既にご感想を頂いた方には個別にお返事をさせて頂きました.

ありがとうございました.

<< 1 >>

1ページ中
1ページ目