先見経済7月号 同族企業の事業承継方法
2009.07.01
先見経済7月号に特集記事として「同族企業の事業承継方法 経営のバトンはどのように受け継がれるべきか」を寄稿しました.
記事中の見出しは次の通りです.
1.国内法人の大多数は同族企業が占める
2.同族企業のプラスの特徴は長期展望と大胆な改革
3.事業承継の壁—後継者の育成方法とは—
4.リーダーシップに悩む後継者
5.後継者の成長をサポートする
6.後継者育成方法をどのように選択するか
7.育成のための修羅場経験とは
8.自ら成長するための手段としての「内省」
9.内省と対話を通じて経営のバトンを渡す
現在,日本では多くの企業が事業承継という課題に直面しており,その事業承継の多くは親から子へとなされています.そこには親子の関係からビジネスへの関係へと関係の幅を広げるという難しい課題が含まれています.親だからこそ子である次期経営者を育成することが難しい側面があることを,これまで私は多くの経営者の方からお聞きしてきました.そのような側面に対する効果的な対応方法も含めて,比較的幅広く同族企業の事業承継というテーマで書かせて頂きました.
是非,ご興味のある方はお読み頂ければと思います.
ご感想やご質問はいつでも歓迎です.
今後の研究の励みと参考にさせて頂きます.
こちらのフォームからお寄せください.
頂いたメールには必ずお返事をさせていただきます.
生と死、獲得と喪失
2009.06.22
今年の4月から週1回、関西学院大学社会学部の聴講生をしています。聴講している科目は藤井美和先生の死生学です。
死生学や藤井先生との出会いについては以前ブログでも書かせて頂いたのですが、私自身が死生学に強い関心を持っている理由の一つは、現在のビジネススクールの教育科目には偏りがあると思ってきたからです。
ビジネススクールでは、競争戦略論をはじめ、「戦い」をイメージさせる科目が数多くあります。ビジネスにおける戦いの目的は、投資に対する経済的な利潤を最大化して獲得することであり、戦いを教えるということの中身は「獲得」のノウハウを教えるということです。つまり獲得ノウハウの教育の場がビジネススクールであるとも言えます。
しかし、人間を個人のレベルで見ると獲得というコンセプトがカバーできる範囲には限界があります。それは誰しもいつ死ぬかわからないからです。誰もが死に向かって生きており、我々は皆死にゆく人だと言うことが出来ます。そして、死にゆく過程とは獲得だけではなく、多くのことを喪失してゆく過程であると言えます。実際に身体的な制約から出来なくなることが沢山でてきます。人と会うことや趣味であっても断念せざるをえなくなっていきます。
ビジネススクールは別に人生を教える学校ではないのだから獲得だけを教えても問題ないという考えもあるかもしれませんが、やはり獲得だけを教えることには偏りがあるのは事実です。獲得だけを目的として飽くなき競争をすることが今日の世界的な景気後退を生み出してきた一因であることや、ワークライフバランスの問題を生み出してきた一因であることは否定することが出来ません。
経済的な目的とそれ以外の目的は関連しあっており、時に金銭は他のより重要な目的を達成するための不可欠な手段になるなのだから、まずはお金がないとはじまらないだろうという指摘も当然ありますが、経済的な利得を獲得するために働きすぎてストレスで病気になったり、家族の関係が悪化したり、生き甲斐を喪失してしまったりといった問題が後を絶たない現実に対して答えにはなっていません。
藤井先生は死も含めて生を考えることの大切さを授業の中で何度もおっしゃっていました。そしてそれは喪失も含めて獲得を考えるということの大切さでもあると思います。私たちの様々な目的にはそれぞれ異なる重みがありますが、私たちはその重みの相対性について無自覚であることが多いように思います。そしてその原因は、死や喪失について考えることをタブーとし、考慮の対象外としている社会的な風潮とも関係があるのではないかと思います。戦略論では、限られた資源を有効に使う為に目的にも優先順位をつけるようにと教えますが、死や喪失も含めて目的の再検討をすることが重要ではないかと思います。
「人間として死や喪失の過程を学ぶこと」、「獲得と喪失を一体のものとして捉えながら仕事の目的を考察すること」これらのことを教育の中に組み込んでいくことがこれからのビジネススクールにとって大きな課題であると思います。
鶴岡出張
2009.06.14
先週,東北公益文科大学大学院の石田英夫先生のお招きで山形県鶴岡市に出張してきました.
今回の出張目的は2つの会社を取材させて頂くことでした.
1社目は伊藤鉄工株式会社様,2社目は湯の浜温泉の亀や様です.
1社目の伊藤鉄工さんは,なんと創業800年を超える企業です.ある調査によれば日本で4番目に古い営利組織ということになります.
それほどの長い期間,ファミリーを中心として経営を続けることが出来た理由は一体何だったのか,家族や親族の方々との関係性,技術や経営,地域や顧客との関係性,環境変化への対応など,色々とお聞きしました.
文治5年(1189年)創業
経営者の伊藤さん親子,石田先生と一緒に記念撮影.
2社目の亀やさんもファミリーを中心に経営を続けられてきた100年以上の歴史を持つ企業であり,名門旅館です.
明治6年(1873年)創業 風格を感じさせる亀やさんの看板
大変興味深かった点は,社長の阿部さんが,先代経営者であるお父さんと一緒に経営者としてこれまで自分達が果たしてこられた経験と役割を振り返り,それまで当たり前であった業界の常識や経営者であるからこそ見えにくかったことを発見・反省し,その後の経営の基礎となるお考えなどをまとめられたことでした.
ファミリー企業の場合,ファミリー・メンバーの方々は一般の社員の方とは異なるキャリア・パスを歩むことが少なくありませんし,ファミリー企業の長い伝統や文化に幼少の頃から触れていることが少なくありません.もちろん,そのこと自体は決して良いとか悪いとかの問題ではありません.重要な点は,ファミリーにはファミリーという条件ゆえに見えていることや,時に見えにくくなっていることがあるということです(逆に一般の社員の方には見えにくいこともあります).阿部社長の場合,親子の対話を通じてそうした点に数多く気づかれていかれていったという点で私にとって大変興味深いケースでした.
亀やさんの立派な庭園でも記念撮影.左から石田先生,阿部社長,八木.
なお,当日は足を伸ばせませんでしたが阿部社長が手掛けられた湯田川温泉 湯どの庵と東京・赤坂の阿部も大変好評だそうです.
取材にご協力いただいた伊藤様,そして阿部様,誠にありがとうございました!
大変勉強になりました.
さて,取材が終わって,湯野浜温泉の温泉街を石田先生とプラプラ歩いていると・・・
「八木君,おいしそうな匂いがするねぇ」
「あ,石田先生,あそこの魚屋さん魚焼いてます!」
「食べてく?」(お店の方)
「も,もちろんです!ビールあります?」(石田先生+八木)
そんなわけで最高の焼き鯖にもありつきました.
鶴岡最高!
日経トップリーダー6月号 修羅場の後継学
2009.06.01
本日,日経トップリーダーの6月号が発売になりました.
今月号でもこれまで私が行ってきた調査の結果を基に「修羅場の後継学」という記事を提供しています.
内容は後継経営者の方々が経験する修羅場と呼ばれる困難な経験やその意味についてです.
記事では紙幅の関係上十分に述べていませんが,私の研究では,修羅場自体は必ずしも人を成長させるとは限らないけれども,そのような状況が自ら自身の内省を深めるまたとない機会となることが明らかになっています.大規模な調査を行った結果,内省によって自己理解と他者理解を深め,自己変革ができるならばリーダーとしての有効性も大きく向上することを明らかにすることが出来ました.
お読みになられた方,ご感想やご意見などお寄せ頂ければ幸いです.
メールはこちらのフォームからどうぞ.
既にご感想を頂いた方には個別にお返事をさせて頂きました.
ありがとうございました.
ドラムサークル・ファシリテーター研修
2009.05.31
アーサー・ハルさんによるドラムサークル・ファシリテーター研修に参加してきました.
この研修に参加したきっかけはもちろん同研修の主催者である佐々木薫さんとの出会いです.
佐々木薫さんには今年我々のクラスで実際にドラムサークルのファシリテートをして頂き,その後も多くのことを教えてもらっています.
そして今回,ドラムサークルの父と呼ばれるアーサー本人によるワークショップに参加出来たことは,私にとってとても幸運なことでした.
それはアーサーによるドラムサークルが,当初私が期待していた以上のものだったからです.
それは,コミュニティに新しい可能性をもたらすものであると同時に,
個人にとって協働的な生き方や自分らしいあり方を学ぶことが出来る高度に洗練されたものでした.
アーサーのメッセージ「Share your spirit」という言葉が,まさにドラムサークルの精神を示しているのだと思います.
こんな形でもアーサーはSpiritをShareしてくれました.
ワークショップは常に真剣そのものでした.
ワークショップでは皆で輪を作ります.
屋外でも輪を作ります.
輪を作ることは簡単なのに,輪の中に入ってファシリテートすることは想像以上に難しいものでした.
今回の研修では,アーサーをはじめ沢山の方と出会えたこと,沢山の学びを頂いたことに心から感謝します.
そして場作りをしてくださった佐々木薫さんと他の方達にも本当に感謝です.
ありがとうございました!
是非またお会いしましょう.
日経トップリーダー5月号 修羅場の後継学
2009.05.28
もうほとんど5月も終わりに差しかかっていて恐縮ですが.
5月1日に日経トップリーダー5月号が発売になっています.
先月に引き続き「修羅場の後継学」というタイトルで記事を提供させていただいています.
中小企業の後継経営者の方々が,事業承継時に実際に直面した様々な困難経験に関するこれまでの八木の研究を基にした内容です.
お読みになられた方,ご感想やご意見などお寄せ頂ければ幸いです.
メールはこちらのフォームからどうぞ.
既にご感想を頂いた方には個別にお返事をさせて頂きました.
ありがとうございました.
かがわ経済レポート 4月5日号
2009.04.12
かがわ経済レポート(2009 No.938 4月5日号 p.40)に実践型社会起業家論のビジネスプランコンテストの様子が紹介されました.今後の開講予定などについてもコメントしています.よろしければご覧下さい.
邪馬台国へ詣る道 香川大学公開講座
2009.04.12
平成21年度の香川大学公開講座のパンフレットが手もとに届きました.
この公開講座は香川大学生涯学習教育研究センターが主催しており,八木も同センターの委員を務めております.
今年度,私が提供させて頂く講座は,歴史好きが高じてついに邪馬台国に関する本を出版された元エンジニアの住谷善愼さんを講師役として「邪馬台国はどこにあったのか?」に関する謎解きを楽しむ内容です.歴史好き素人である私はモデレーター役をさせて頂きます.最近でも邪馬台国の所在を示す重要な証拠と考えられる新たな遺跡が発見されるなど,興味のつきない謎の国についてご関心のある方は是非受講いただければと思います.
参考文献:住谷善慎著 「邪馬台国へ詣る道ー魏使 建中校尉 梯儁ー」 文芸社刊 1,600円
講座内容:邪馬台国の所在については明治43年(1910年)に論争がはじまってから、来年でくしくも100年となります。その所在については、魏志倭人伝が基本史料とされています。本講座では,先学の諸説を紹介した上で、それら先学の説とは異なる「その余の旁国二十一国」に焦点をあてます。そして倭国三〇国の所在を漢字国名⇒音感と地図⇒現在の地名音という独自の分析に基づいて、各国の所在を点から線へと明らかにしていくことを試みます。この邪馬台国に詣る1本の道を主題にして、日本古代史最大の謎解きを知的に愉しみましょう。
講座名:「邪馬台国へ詣る道 魏志建中校尉梯儁(ぎしけんちゅうこういていしゅん)」.
日程:6月10日,6月17日,6月24日(いずれも水曜日)
時間:15時から17時
受講料:7,000円
場所:香川大学生涯学習教育研究センター
申込み:下のHPにアクセスし,電子メールにてお申し込みください.
http://www.kagawa-u.ac.jp/lifelong/lecture/index.html
日経トップリーダー4月号 修羅場の後継学
2009.04.02
ドラムサークル in 香川大学 3月22日結果報告
2009.03.23
3月22日(日)に実践型社会起業家論 の特別プログラムとして,ドラムサークルを実施しました.ファシリテーターにはドラム・サークル・ファシリテートの第一人者でいらっしゃるDRUMAGIKの佐々木薫さんをお招きして実施することが出来ました.
<佐々木薫さん>
ほとんどの方がドラムサークルは初体験というメンバー構成でしたが,佐々木さんの素晴らしいファシリテートのおかげでそれぞれがとても楽しんで深い体験をすることが出来ました.感想を聞かせてくれた受講生の方々がそれぞれ目を輝かせいるのが印象的でした.
私自身は今回の授業の狙いを,受講生と共に非言語的なコミュニケーションを通じて体感的な協働感覚を分かち合うことにおいていたのですが,そのような狙い自体を言語的に説明しなくても,状態として協働する感覚が自然に起こっていくところがドラムサークルの魅力だと思いました.
非言語的なコミュニケーションには様々な可能性がありますが,可能性の一部はメッセージを同時並行的かつ抽象的にやりとりできる効率性から生じます.言語的なコミュニケーションの場合,発信者と受信者の役割に順番がなければ伝達が困難であり,発信→受信→発信→受信・・・といった具合に直列的にコミュニケーションが進行せざるをえないのですが,非言語的なコミュニケーションではメッセージの並列処理が可能です.ドラムサークルのような楽器を使ったコミュニケーションの場合,音色やリズム,音の大きさ,振動など様々な要素によって抽象度の高い情報を膨大に並列処理していくことになります.抽象度の高い情報は潜在的に多くの情報を含みますし,しかもそれを短時間で膨大にやりとりできるので,結果的に私たちが同時に自己開示を行い,深い一体感を感じることも可能になるのです.また言語的なコミュニケーションでは発言の主導権を取ることが苦手な人もいますが,ドラムサークルではそうした主導権争いをすることなく誰でも容易に自己開示することが出来るため,場が持っている多様性を活かすという可能性も高まります.
したがって地域コミュニティを開発するための人的な環境整備としてドラムサークルを導入すれば,非言語的なコミュニケーションを積極的かつ膨大に行えるため,気がついたら地域の人々が互いを他人とは思えない位に身近に感じられるようになるといったことも容易に実現する可能性があります.
地域活性化にドラムサークルを活用するという考え方はまだほとんど浸透していないようですが,私自身は社会起業家教育の場で今後も積極的に活用していきたいと思いました.
佐々木さんには素晴らしいファシリテーションをして頂き,沢山の学びと気づきを頂きました.ありがとうございました!!!